戦国期に活躍した忍者その忍者の源流をたどる。

忍者は天地造化の神か盗賊か?

その発生や形態を説く人によっても、内容が異なっている

いま忍者は、ひどく人間臭い存在として、あるいはスーパーマンとして、小説や劇画、映像、舞台にしばしば登場してきて、すっかりなじみ深くなった。描くほうにも、見るほうにも、すでにある忍者像に対する約束ごとが成立しているかのようである。じっのところ、それぞれが抱くイメージや知識はまちまちであるばかりか、その発生や形態を説く人によっても、内容が異なっている。

『甲賀流忍術秘巻』には、忍術の祖として、恵美押勝、伊賀覚法、楠木正成、甲賀ノ芥川兵部といった人の名が見える。また、源義経、甲賀一二郎、藤原千方などの元祖説があるほか、山伏修験(役小角)からの発生説、『孫子』の兵法が起源という説など、さまざまだ。これらはまず、武芸伝書にしばしば見られるようなお飾りの流祖名と考えていい。忍術とは元来、直接には諜報、流言、変装、潜入、放火、暗殺などを行なう方法とされているのだから、だれが発明したというほどのものではない。ときとして起こる戦略・政略に関し、権謀術数をめぐらすさい必要となるもので、それはまた古今東西を問わず、遺憾ながら人間に備わる暗い一面でもある。

あたかも天地の造化神のようである

その形態や横顔につき、『万川集海』では、まず忍者の親玉〃上忍″のことを、こう述べている。

「人ノ知ルコトナクシテ功者ナルヲ上忍トスルナリ」
そしてそれは、「音モナク、臭モナク、知名モナク、勇名モナシ。ソノ功、天地造化ノ如シ」というわけで、あたかも天地の造化神のようである。

春のどかにして草木生長して、花咲き、夏は熟して草木茂長し、秋は冷やかにして草木黄ばみ落ち、冬は寒くして草木枯れ、根に返る、といった表現もある。要するに、姿かたちを見せず、ごく自然の営みを行なうというものだ。これとは対照的に、同書には名の知れた十一人の忍術の達人が登場する。彼らはしかし、術が未熟ゆえ名を知られるようになったのだ、と批判がつく。それらは、野村ノ大炊太夫(孫太夫)、新堂ノ小太郎、楯岡ノ道順、下柘植ノ木(大)猿、同小猿、上野ノ左、山田ノ八郎右衛門、神戸ノ小南、音羽ノ城戸、甲(高)山ノ太郎四郎、同太郎左衛門の十一人で、いずれも伊賀の地名を冠し、俗に〃伊賀十一忍衆″とよばれた。 そこで、批判されるべき事跡とはどんなものかだが、試みにあげてみる。〈野村ノ大炊太夫〉ある家に忍び込んだとき、侵入者に気づいた主人が、槍を握って待ち構えていた。大炊太夫は、「家人が起きたらしい。引き揚げよう」 「うん、そうしよう」と、一人で会話した。主人はほかに仲間がいると思い、外へ飛び出した。その隙に、彼は逆に家の奥へ忍び込んだ。〈新堂ノ小太郎〉 佐那具の峯下の城へ忍び込んだとき、敵に見答められた。小太郎は石を井戸へ投げ込み、あたかも井戸へ落ちたようにみせかけ、まんまと逃走した。〈下柘植ノ小猿〉犬の鳴き声がうまかった。忍び込んだ先で、声高に鳴いてみせたところ、相手がうるさいと叫んだので、たちまち所在がわかり、難なく討ち取った。なんとも他愛のないものである。そのほか、織田信長を鉄砲で狙った音羽ノ城戸、変装術にたけていた山田ノ八郎右衛門、妖者術を使って佐和山城へ侵入した楯岡ノ道順らの記事がある。

 彼らはそんな手柄を、とくとくとして誇り語ったのでもあろうか。これが上忍になると、勇名も功名もまったく見せなかったというのである。いつぽう、同じ『万川集海』に、

「忍び熊手」など、盗賊も同じように使っている忍び組織の呼称からもうかがえる

「ソモソモ忍垂云ハ、略盗賊ノ術二近シ」という文言がある。 技術的には確かにそうである。さきの伊賀十一忍衆の例に見られるように、だいたいがひそかに他人の家屋敷に忍び込むのは、盗賊以外のなにものでもない。身のこなし、夜目のきく眼、度胸や機転は、ともに要求されるものだろう。道具も使う。忍具とされる「といかき」(塀を切るための鎌)、「くるろかき」(鍵はずし)「しころ」(両刃のノコギリ)「くない」(両そぎの鉄棒)「忍び熊手」など盗賊も同じように使っている忍び組織の呼称からもうかがえる。前にも述べたが、加賀藩の伊賀組は〃愉組″といったし、仙台藩では〃黒腔巾組〃といった。〃黒腔巾〃は『嘉良喜随筆』によると、どうせ彼らは、もと盗賊か山賊の類なのだから、彼らの常用していた腔巾から命名したのだと述べてある。


不可思議・不気味な忍者たち

忍者の源流をたどる

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